リョースケに連絡を取ると、リョースケは「久しぶり。大変なことになったね」と高校時代と同じような口調だった。持つべきものは友なんだなと心から思った。
そこから状況を説明するために電話をすることにした。
もちろん家には妻がいるので電話はできないので、出勤時間を早めて、2駅先の入ったこともないカラオケから電話した。
離婚となった場合の親権、財産分与、慰謝料、そもそもの不貞の証拠としてのスマホ覗き見…その時不安に思っていることを全部吐き出した。弁護士に相談したことというより、そういう話に向き合ってくれる人に吐き出せたことで安心できたのかもしれない。
リョースケは弁護士と友達の両面から優しくアドバイスしてくれた。ありがとうリョースケ。電話でリョースケには「いつ本人にぶつけるかはちょっと考える」とは言ったが、結果的にその日の夜に妻に言うことにした。仕事中ずっとその事ばかり考えてしまうし、何より子供達をそんな人に預けているのが不安で仕方がなかった。家に連れ込むかもしれないとか、家族の寝てる布団でし始めるかもしれないとか、悪いことはどこまでも妄想が膨らんだ。
なかなかの地獄だった。夢にも出てくるし、起きたら横にいる妻を見るたびにその疑惑を思い出さざるをえない。世の不倫ドラマを作っている人は頭がおかしい人たちかもしれないと思うようになった。
この出来事を俯瞰している自分もいて、この安定した生活にマイナスではあるが変化が来た!これぞ人生か!と、面白さを感じる自分もいたのは確かだ。スクラップアンドビルド。ここからまた新しい人生が始まると思うとポジティブな気持ちになれた。それこそドラマみたいなことが自分に起こっているのだから。まあこのポジティブの100倍くらい地獄ではあったが。
自分が耐えさえすれば終わる話かとも考えた。この安定の生活を変えることへの恐怖はものすごかった。人がした悪い事を突きつけるのは苦手だし、おれは口ケンカも途中から面倒になって思考停止ししてしまう。思考停止して全く思ってもいない謝罪を何度したかわからない。今回もそれと同じになるかとも考えたが、流石に今回は影響が大きすぎた。やはり子を持つ親が子を裏切っていると言う事は許せなかった。俺だけを裏切ってるだけならまだ許せたかもしれない。
職場から妻にLINEを入れた。「今日夜ちょっと息子が寝た後に話したいことがある」と。
鬼詰めしてくることは想定していたので、仕事を終えて帰る直前に連絡した。絶対に仕事が手につかなくなるからだ。
予想通り、帰りの電車内は鬼詰めラインの連続だった。「なに?」「なんのこと?」「なんかしたの?」「相手の旦那にばれたの?」「ちょっとでいいから言ってよ」などまくし立てられた。なぜ俺が俺が不倫していてそれがバレた前提で来るのかは全く理解できなかったが、こればかりはちゃんと直接話したい。LINEでは話せないとのらりくらりとかわし続けた。
家に帰るのが億劫だった。どこから話そうか…何て声をかけようか…めんどくせぇなぁ…などと考えていたが、もう逃げられなかった。この状況から、と言うよりも自分から。
家に帰ると妻は子どもを寝かしつけている最中だった。俺は風呂に入って長期戦の準備をする。一応録音しておいた方がいいなぁ、とも思いスマホのボイスメモを開いた。風呂から上がると妻はリビングのこたつに座っていた。おれはこっそり録音ボタンを押して、こたつに入った。
「おれになんか隠してることある?」
これは明らかなジャブ。こちらはもう全部証拠も握っている。その上でこの人は話し合いにどう向き合おうとしているのか探るためだ。
「いや、何にもない」
あー、終わったと思った。この後に及んでも嘘をつく人間なのかと。これはもうやっていけないと直感した。
「本当に何もないのね?」
確認する。感情的なケンカにはしたくないが、全部知られてもなお嘘をつく人間という事を認めたくなかった。
「何もない。なんなの?💢」
なぜかそちらが逆ギレしてくるのは本当に意味がわからなかったが、
「おれはもう全部知ってんのよ。ほんとになんもないんだな?」
3回目だ。ここまで言えばもう正直にいうか‥?
「なんもない。」
カスだなこいつは。口に出しそうになったが堪えた自分を讃えたい。
会社なので、つづく…
