22歳、就活終了直後に彼女の妊娠が発覚し、それまでのやりたいことやなりたい理想は置いておいて、まずは家族のためにとここまで10年間何とか働いてきた。
高給な代わりに長時間労働をしている時にふと思った今の働き方で本当にいいのかという迷い。
タイミングを合わせるかのように、夫婦関係にも突如としてヒビが入りだす…。
きっかけは入浴中、洗面所に置いてあった妻のスマホの通知だった。
聞いたことのない名前の男性からのハートや「大好き」と言うワードが使われたチャットだった。鼓動が緊張とも興奮とも違った理由で早くなった。普段は「まぁ仲良い人とならそんなふうなこともあるよね」と気にも留めないが、妻を下の名前で呼んでいた男との関係性が直感的に気になった。
急いで通知の画面の写真を撮り、中学から15年以上の付き合いの親友であるタイヨウ(仮名)に相談してみた。まぁ可能性はあるけどそんなことはないだろうと考えていたが、彼の反応は「どう考えても真っ黒だろwもうヤッてるよ」とのことだった。
これまで守ってきた家庭が壊れることを直感して怖くなった。タイヨウはそう言うが本当はただの仲のいい友人かもしれない。でももし本当なら、自分はまだしも子供を裏切っている妻をこのまま放置しておくわけにもいかない。
とんでもないモヤモヤが心の中にできてしまった。
そう言う目で妻を見てしまうのも嫌だが、裏切っている妻がいけしゃーしゃーと子どもに触れ合っているのが何とも不快で、しばらくの間は精神的に滅入ってしまった。
そんなある日の夜、そんなおれにとっては奇跡としか言いようがないことが起きる。
家族はみんな一つの布団で寝ることにしていて、その日は仕事の都合で帰宅が遅くなってしまった。憂鬱な気持ちで1人すでに家族が寝ている布団に入ろうとすると、妻のケータイの画面が光っていた。
「また通知か?」と思い覗いてみると、なんとラインのトーク画面だったのだ。妻は普段肌身離さずスマホを持っていて、おれはロック解除のためのパスワードも知らないのでこれには驚いた。妻は寝落ちしたのか?熟睡しているようだ。
千載一遇のチャンスと疑惑の男性とのチャット画面を開く。
結論として「真っ黒」だった。
タイヨウの言った通りで、会話の内容からこれまでの逢瀬は1度や2度ではないようだった。
心臓の鼓動を全身で感じながら自分のスマホでカメラを起動する。いちいち音を立てて写真を撮っている暇はない。妻がふと目を覚ましてもアウト、完全に修羅場になってしまう。なんてことを頭の中で超高速で考えながら、チャット画面を動画で収めた。3分ほどの動画になったが、この3分を撮っている間は1時間以上に感じた。
おれは不器用な男だ。好きな女の子に可愛いなんて口が裂けても言えないし、三人兄弟の末っ子ということもあり口の聞き方が女の子に対応できるようには育たなかった。交渉ごとも苦手なので、して欲しければど直球、根回しや外堀を埋めるような作業、遠回しな表現などはできない。
地獄のような3分を終えてから、スマホで弁護士について検索した。真っ当に生きていたら関わることのない世界。どこがいいのか、誰に頼めばいいのかはさっぱりわからない。思考を放棄したい。めんどくせぇ。でもこのまま問題を放置するわけにはいかない。またタイヨウに連絡した。
高校の同級生の多くは皆超優秀で(おれは除く笑)、学生時代から弁護士になりたいと言っていて、数年前の同窓会で再会した時には見事弁護士として離婚などの業務をしているリョースケ(仮名)がいることを思い出した。すがる思いでタイヨウに「真っ黒だった。リョースケと連絡が取りたい」とラインをいれた…。
つづく。

